テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

 聞き憶えのある声が、妙に懐かしかった。
 たった一日この男の顔を見なかっただけなのに、もう何日も逢わなかったような気がする。
 でも、その想いは、けして表に出してはならないものだった。そのときのお民は、まだ心の内で生まれた感情が何たるかをはきと自覚してはいなくても、そう思った。
―源さんにとって、あたしは一生、斜向かいの口うるさいおばさんくらいの位置が丁度良いんだから。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ