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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第1章 恋花(こいばな)一つ目~春の夢~壱

 清七自身にも、そのとき自分の身の内を一瞬駆け抜けたやり場のない感情が何なのか、―果たして、その慎之助という見たこともない男への嫉妬なのか、それとも、やわらかな女の身体からかすかに漂う香りに清七の中の男が久々にめざめたのか―そのどちらとも判らなかった。
 ただ一つだけ言えたのは、無心な瞳で自分を見上げてくる女の顔から、眼が逸らせなかったということだけ。

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