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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第8章 三つめの恋花  桜いかだ 其の壱 

「いや、もう十分頂いたから」
 弥助が断ると、おれんは笑った。
「そうですね、あまり遅くまでお引き止めしても、奥さまやお嬢さんに申し訳ないわ」
「―女房は死んだよ。だから、もういねえ」
 我ながら何とも妙な応え方だと思うけれど、こんな言い方しかできない不器用な男なのだから仕方ない。
「あたしったら、調子に乗って、ついぺらぺらと喋っちまって、申し訳ありません」
 おれんが心底済まなさそうに言う。
 弥助は薄く微笑した。

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