テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第10章 花いかだ 其の参

 橋を渡り切った先に一本だけ植わった枝垂れ桜の下に、紅椿がひっそりと花開いていた。
 夜陰にひそやかに浮かび上がる紅い花は毒々しいほどに艶(あで)やかで美しい。
 弥助は、しばし、その紅い花に見惚(みと)れた。
 駆け抜ける風が紅椿の枝を揺らし、一輪の花が水面に落ちる。川面
に波紋がひろがり、瞬く間に消えてゆく。その儚い様は、まるで叶わぬ恋を思わせる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ