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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第10章 花いかだ 其の参

 弥助は、花が見えなくなってもなお、しばらくの間、橋の上に佇んで夜風に吹かれていた。橋を渡れば、おれんの店は眼と鼻の先だ。
 老中の松平越中守のひときわ宏壮なお屋敷の前を通り、武家屋敷を取り囲む築地塀沿いに歩いていった先に、おれんの店はひっそりと建つ。
 ぬばたまの闇に〝花のれん〟の掛行灯の明かりがほのかに滲んでいるのが少し幻想的に見えた。前回と同じように、暖簾をかき分けて店の中に入る。

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