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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第10章 花いかだ 其の参

 ふいに藤次郎が上に乗った弥助の腹を下から蹴り上げた。隙を突かれた弥助が勢い余って後ろへ倒れる。その拍子に、丁度、真後ろにあった机の角に頭が激突した。鈍い音がして、弥助の逞しい身体が後へと沈んだ。
 仰向けに横たわったまま微動だにせぬ弥助に、おれんが走り寄る。
「大丈夫? 弥助さんッ、弥助さん」
 まるで死人のように身じろぎもしない弥助を、藤次郎は腑抜けたように眺め下ろしていた。

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