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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第10章 花いかだ 其の参

「若旦那、お願いですから、先生をお医さまを呼んできて下さいませんか」
 おれんが泣きながら訴えると、藤次郎はあわあわと首を振った。
「私は知らねえ。一切、拘わりなんぞない。そいつが一人で勝手に後ろへ倒れただけだ」
 藤次郎が完全に心の均衡を失ったことは明らかだった。藤次郎は〝私は知らない〟とうわ言のように繰り返しながら、後ずさった。数歩後退すると、後はもう後ろを振り向きもせずに走り去った。

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