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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第11章 四つめの恋花 山茶花~さざんか~ 其の壱 

 最早、一歩も歩けないほど身体は冷え切り、手脚はかじかんでいる。昨夜から丸一日、何も口にしてはおらぬ胃の腑は空腹を通り越して、きりきりとした痛みをしきりに訴えてきた。自分では脚を前に踏み出そうとしているつもりなのだが、身体にいっかな力が入らず、ふわふわと雲の上を歩いているような心地がした。
―いけない、このまま、ここで倒れちまったら、死んじまう。

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