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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第11章 四つめの恋花 山茶花~さざんか~ 其の壱 

 この世を〝憂き世〟とは全くよく言ったものだと思う。憂きとは、憂し、つまり憂いが多いという意味につながる。憂き世とは哀しみの多いこの現世という意味だ。
 いや、千汐にとってこの世が端から憂き世であったわけではない。昔、うんと昔、そう、気の遠くなるくらい昔には、ちゃんとふた親もいて、何不自由もない暮らしを当たり前のように受け止めていた時期もあったのだ。

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