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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第11章 四つめの恋花 山茶花~さざんか~ 其の壱 

 そんな男は千汐の身体に触れもせず、金だけを置いて、さっさと逃げるように去ってゆく。それでも、まだ金を置いていけば良い。 銭も払わず逃げてゆこうとする男には、袖を引っ張って言ってやるのだ。
―兄さん。ちょっと、忘れ物。お代をまだ貰っちゃいないよ。
 千汐の顔を見ようともせず、化けものに銭を投げつけるようにして出てゆく男を、千汐は醒めた眼で見送る。
 ふん、意気地のない男!

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