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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第1章 恋花(こいばな)一つ目~春の夢~壱

 あれは、三年前の―丁度、年が明けて早々のことだった。清七の脳裡にあの日の凄惨な光景がまざまざと浮かび上がる。白昼、他人の家に勝手に入り込んでおみのを手込めにした浪人者は、傍らで泣き叫ぶ赤児の太助を煩いとただそれだけの理由で口を押さえ窒息死させたのだ―。
 その浪人瀬田川(せたがわ)亮(りよう)馬(ま)は元はさる藩の藩士であったというが、故あって浪々の身で清七と同じ裏店の住人となった。瀬田川はかねてからおみのに懸想していて、とうとう恋慕の想いに耐えかね、凶行に及んだのだった。

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