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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 かつて当然ながら、安平太兵衞には暖簾分けの話が幾度も出たにも拘わらず、安平太はその都度丁重に辞退し、鳴戸屋のために忠勤ひと筋に励んできた。曽太郞にとっては奉公人というよりは、祖父と呼んだ方がしっくりとくる男だ。幼い時分には曽太郞自身、勉強と修練のために丁稚として奉公人たちの間に交じって立ち働き、安平太から読み書き算盤、商いのいろはを教わった。
「お前がそのようなことにまで一々気を遣わなくても良いだろうに。奥のこと―病人の世話なんぞ女中に任せておけば良い」

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