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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第6章 光と陽だまりの章③

 姉の方が三歳、妹が二歳だと子煩悩で愛妻家らしい夫の口調は、どこまでも嬉しげであった。チョゴリ姿の二人の娘たちの愛らしさといえば、なるほど若い父親が自慢するのも頷けるほどだ。
 この夫婦は五年前に入籍はしたけれど、結婚式は挙げていないのだという。それで、今回、その代わりにせめて写真だけでも残しておきたいと思い立ったそうだ。
 こういう場合、普通ならタキシードとウェディングドレス、または、紋付羽織袴に白無垢といった格好をするものだが、新郎が在日韓国人ということで、韓国の伝統にのっとった民族衣装を着ることになったらしい。
「さあ、それでは、もう一枚、撮りますよ。六月の花嫁は幸せになるって昔からいわれてますから、ご一家さま、ますますご隆盛を極められることでしょう。本日は、真におめでとうございました。当写真館では、ご一家さまの末永いご多幸を心よりお祈り致しております。ああ、大きいお嬢ちゃん、これで最後の撮影になりますから、もう少しだけ、辛抱して下さいね。ハイ、では行きますよ、一、二、三」
 カメラマンのかけ声で再び閃光が光る。彼の覗き込んだファインダー越しに、美しい花嫁は夫や子どもたちに囲まれて幸福そうに微笑んでいた。
(完)
★長い間、応援いただき、ありがとうごさいました。 作者★
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