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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第2章 炎と情熱の章②

 第一、今は晃司が姿を見せなくなったから良いようなものの、また、今度マンションに戻ってくるようなことがあったら、どうするのか。あんなことがあってからというもの、美月はしばしば夢を見て、うなされるようになった。黒い得体の知れない魔物に追いかけられ、喰われてしまう怖い、怖い夢だ。
 もう、これ以上、今の生活には耐えられない。
 美月はひそかに区役所に出向き、離婚届を入手した。晃司の書くところ以外はすべて、自分の名も記入して捺印もした。けれど、いざとなると晃司に渡す勇気がない。
 郵送することも考えたけれど、結局、渡しそびれて、箪笥の引き出しにしまい込んだまま、日々は空しく過ぎていった。

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