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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第3章 炎と情熱の章③

 高速を一時間ほど走って着いた海辺で、晃司はいきなりポロシャツとチノパンを脱ぎ捨てたかと思うと、サーフィンを始めた。
 自分から誘っておきながら、美月のことは殆ど眼中にない様子で夢中になっている。
 しかし、お義理でついてきたにすぎない美月にとっては、かえってその方が気楽というものだ。美月は、器用に波に乗っている晃司は放っておいて、一人ぼんやりと海を眺めていた。
 その中、じっとしているのにも飽きてきた頃、ふいに晃司が声をかけてきた。愛車のミッドナイト・ブルーのスポーツカーまで走っていった晃司が差し出したのは、パステルピンクの可愛らしい袋だった。浜辺に続く道端に停めていた車に戻ったのは、これを取りにいくためだったらしい。
 小さなビニール袋には同系色のリボンがかかっている。何なのかと眼を瞠っていると、晃司は手慣れた様子でリボンを解き、中からアイボリーの水着を取り出す。
「ほら、いつか言っただろ、俺の知り合いに女性下着メーカーの社長がいるって。そこの会社って、水着も作ってるんだよ。どう? 今、ここで試着してみない?」
 美月は差し出された水着を眺めた。色は悪くないけれど、何とも大胆なビキニだ。
 ブラは3/4カップどころか、胸の半分近くをやっと覆い隠すくらいの大きさしかないし、ショーツはといえば、ハイレグの切り込みは深く、いずれにしろ、上下共にほんの一部分しか隠せないだろう。
 それに―、見ただけではよく判らないけれど、ああいう素材や色の布は水に濡れれば、透けてしまうのではないかと思う。乳房どころか身体の隅々までを人眼に晒すことになってしまう。
 美月は、男のあまりの非常識さに憤りを憶えずにはいられなかった。こんな水着ともいえない代物を何故、この男は自分に着てみろと勧めるのだろう。
「折角ですけど、お断りします」
 美月は小さな声で言うと、そっと視線を逸らした。
 それでなくとも、晃司の今の格好はかなり扇情的だ。自分の鍛え抜かれたしなやかな体軀を見せることが快感なのか、小さなビキニ・ブリーフ一枚に薄手のパーカを羽織っただけのいでたちで、首にタオルをかけている。

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