紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第4章 光と陽だまりの章
丸三日もの間、閨に監禁され、陵辱の限りを尽くされたのだ。脚腰が立たぬほど苛まれ、泣いて許しを乞うてもなお、あの男は美月を責め立てた。あの部屋で行われたあらゆる陵辱は、美月にとっては思い出したくもない汚辱と屈辱の記憶でしかない。
故郷でもあるK町に帰ってきて、美月はやっと気を抜くことができた。電車に乗っていても、あの男がいつ自分を捕らえにくるかと気が気ではなかった。とはいえ、もう、あのマンションに帰ることはできず、生まれ育った家も手放してしまった今、この町のどこにも美月の居場所はない。
今の自分には行き場一つない。惨めな想いを抱えて、美月はたった一人で町をさまよった。
この町に戻ってきてから、漸く時間の感覚が戻ってきた。病院にいるときもそうだったけれど、あの温泉宿の一室に閉じ込められている間は、時間の観念すら失くしていた。
寄る辺のない身を思えば、ひしひしと孤独と心細さを感じたが、それでも、あの男に弄ばれているときの辛さや恥ずかしさを思えば、はるかにマシだといえた。
結局、K駅前のネット・カフェで過ごし、そこを出た後は、向かいにあった小さなコンビニに入った。
ふもとの病院を抜け出して美月が真っすぐ向かったのは、H市の駅だった。タクシーを拾ってH駅まで行き、ベンチに座って時間をやり過ごした後、始発電車に乗り込んだのである。K町の駅に到着したのが昼前だったから、大方、丸半日以上をネット・カフェで過ごしたことになる。
ネット・カフェを出たからといって、他に行く当てはなかった。若い女の身で深夜、一人徘徊するのは危険だと思い、殆ど衝動的に眼についたこのコンビニに飛び込んだのだ。
美月は手に持った買い物カゴに幾つか商品を入れた。これもさしたる必要性があるわけではなく、半ば良い加減に手許にあった品を放り込んだのである。
美月のこのときの所持金は、わずか数千円であった。それも、病室の枕許のサイドテーブルの引き出しにあった札束の中から、勝手に一枚だけ引き抜いてきたものの残りだ。これもあの男の金だと思えば、気は進まなかったけれど、今の美月には男から逃げるためにどうしても必要なものだった。
今の自分の状況を慮れば無駄遣いなどできる身の上ではないと判っていたけれど、用もないのに店の内をうろついていては、それこそ店員に怪しまれてしまう。
故郷でもあるK町に帰ってきて、美月はやっと気を抜くことができた。電車に乗っていても、あの男がいつ自分を捕らえにくるかと気が気ではなかった。とはいえ、もう、あのマンションに帰ることはできず、生まれ育った家も手放してしまった今、この町のどこにも美月の居場所はない。
今の自分には行き場一つない。惨めな想いを抱えて、美月はたった一人で町をさまよった。
この町に戻ってきてから、漸く時間の感覚が戻ってきた。病院にいるときもそうだったけれど、あの温泉宿の一室に閉じ込められている間は、時間の観念すら失くしていた。
寄る辺のない身を思えば、ひしひしと孤独と心細さを感じたが、それでも、あの男に弄ばれているときの辛さや恥ずかしさを思えば、はるかにマシだといえた。
結局、K駅前のネット・カフェで過ごし、そこを出た後は、向かいにあった小さなコンビニに入った。
ふもとの病院を抜け出して美月が真っすぐ向かったのは、H市の駅だった。タクシーを拾ってH駅まで行き、ベンチに座って時間をやり過ごした後、始発電車に乗り込んだのである。K町の駅に到着したのが昼前だったから、大方、丸半日以上をネット・カフェで過ごしたことになる。
ネット・カフェを出たからといって、他に行く当てはなかった。若い女の身で深夜、一人徘徊するのは危険だと思い、殆ど衝動的に眼についたこのコンビニに飛び込んだのだ。
美月は手に持った買い物カゴに幾つか商品を入れた。これもさしたる必要性があるわけではなく、半ば良い加減に手許にあった品を放り込んだのである。
美月のこのときの所持金は、わずか数千円であった。それも、病室の枕許のサイドテーブルの引き出しにあった札束の中から、勝手に一枚だけ引き抜いてきたものの残りだ。これもあの男の金だと思えば、気は進まなかったけれど、今の美月には男から逃げるためにどうしても必要なものだった。
今の自分の状況を慮れば無駄遣いなどできる身の上ではないと判っていたけれど、用もないのに店の内をうろついていては、それこそ店員に怪しまれてしまう。