紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第5章 光と陽だまりの章②
☆♯06 SceneⅥ(Autum Park~オータム・パーク~)☆
だが、思いもかけぬ妊娠は到底、美月にとって受け容れられるものではなかった。あまりにも苛酷な真実を知ったその日から、美月の心の葛藤が始まった。
勇一と二人きりでバースデーを祝った翌日、美月は勇一に付き添われ、アパートから少し離れた産婦人科病院を受診した。
「おめでとうございます。もう三ヵ月に入ってますよ、お父さん」
老齢の白髭が仙人を思わせる医師は、美月に寄り添う勇一を見て、開口一番そう言った。
超音波(エコー)を当てると、もう胎児が小さな点のようになって画面に映っている。
診察後、エコー写真を手渡された美月は、眺めることもなく勇一に押しつけるなり、泣き崩れた。
病院に来るまでは、それでもまだ、これが間違いではないかと儚い希望を賭していたのだ。診察が終わって、待合室の椅子に座って泣き続ける美月をその場に居合わせた他の妊婦や看護婦たちが怪訝な眼で見ていた。
お腹の子どもは、晃司から受けた辱めを呼びさます存在でしかないのだ。閨に閉じ込められ、陵辱の限りを尽くされた上の妊娠―、美月はこれが悪い夢であったならと願わずにはいられなかった。
その一週間後、美月は再度、同じ病院を受診した。平日で仕事があったにも拘わらず、勇一はまたしても美月に付き添ってきた。
「わざわざ仕事を休んでまで来ることはなかったのに」
どうしても咎めるような口調になってしまう自分が嫌でたまらない。本当なら、何の拘わりもない勇一が美月の病院―しかも産婦人科通いに付き合う必要は毛頭ないのだ。
なのに、勇一は大切な仕事を休んでまで、こうして付いてきてくれる。むしろ、ありがたいと感謝するべきなのに、美月はどうしても素直になれなかった。
それは多分、美月自身がこの妊娠を心から歓べない、お腹の子の存在を母としてちゃんと受け止めることができないからだと自分でも判っていた。
その日、診察室にいたのは初診のときの老医師ではなかった。三十代後半から四十代くらいの中年の医師である。眉や眼の辺りがあの老医師と似ているから、恐らくは親子なのだろう。
だが、思いもかけぬ妊娠は到底、美月にとって受け容れられるものではなかった。あまりにも苛酷な真実を知ったその日から、美月の心の葛藤が始まった。
勇一と二人きりでバースデーを祝った翌日、美月は勇一に付き添われ、アパートから少し離れた産婦人科病院を受診した。
「おめでとうございます。もう三ヵ月に入ってますよ、お父さん」
老齢の白髭が仙人を思わせる医師は、美月に寄り添う勇一を見て、開口一番そう言った。
超音波(エコー)を当てると、もう胎児が小さな点のようになって画面に映っている。
診察後、エコー写真を手渡された美月は、眺めることもなく勇一に押しつけるなり、泣き崩れた。
病院に来るまでは、それでもまだ、これが間違いではないかと儚い希望を賭していたのだ。診察が終わって、待合室の椅子に座って泣き続ける美月をその場に居合わせた他の妊婦や看護婦たちが怪訝な眼で見ていた。
お腹の子どもは、晃司から受けた辱めを呼びさます存在でしかないのだ。閨に閉じ込められ、陵辱の限りを尽くされた上の妊娠―、美月はこれが悪い夢であったならと願わずにはいられなかった。
その一週間後、美月は再度、同じ病院を受診した。平日で仕事があったにも拘わらず、勇一はまたしても美月に付き添ってきた。
「わざわざ仕事を休んでまで来ることはなかったのに」
どうしても咎めるような口調になってしまう自分が嫌でたまらない。本当なら、何の拘わりもない勇一が美月の病院―しかも産婦人科通いに付き合う必要は毛頭ないのだ。
なのに、勇一は大切な仕事を休んでまで、こうして付いてきてくれる。むしろ、ありがたいと感謝するべきなのに、美月はどうしても素直になれなかった。
それは多分、美月自身がこの妊娠を心から歓べない、お腹の子の存在を母としてちゃんと受け止めることができないからだと自分でも判っていた。
その日、診察室にいたのは初診のときの老医師ではなかった。三十代後半から四十代くらいの中年の医師である。眉や眼の辺りがあの老医師と似ているから、恐らくは親子なのだろう。