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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第6章 光と陽だまりの章③

-それじゃ、行ってくるよ。
 勇一は慌ただしく朝食を片づけ、飛び出してゆこうとして、立ち止まった。くるりと振り返り、美月の少し膨らんできたお腹にそっと顔を近づける。
-おっと、こっちにもちゃんと挨拶しなきゃな。それじゃ、梅芳(メヒャン)、行ってくるよ。
 と、お腹の子に向いて呼びかけ、いつものように出かけていった。どういうわけか、勇一はお腹の赤ン坊を〝梅芳〟と呼んでいた。
 韓国では赤児が生まれるまで、胎児名をつけて呼ぶと、健やかな子が誕生するという言い伝えがあるのだと、勇一が教えてくれた。
-でも、何で女の子!?
  と、疑問に思わないでもないが、とにかく彼は赤ン坊の誕生が心から嬉しくてならないらしい。
 勤め先のガソリンスタンドの仲間はもちろん、バイト先の店長や店員、何とあの白石さんにまで美月の妊娠を報告して回っているのだった。
-この子は勇一さんと私の子。
 美月は、そっとまだあまり目立たないお腹を押さえてみる。
 つい数日前、初めての胎動を経験したばかりだが、時折、赤ン坊か腹壁を蹴るのが自覚できるようになっている。
 

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