紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第6章 光と陽だまりの章③
美月は乾いた唇を震わせ、やっとの想いで応えた。
「お腹の赤ちゃんの父親は、金田勇一さんです」
晃司がハンドルを操りながら、酷薄な眼で美月を一瞥する。
「ホウ? あの若造がお前の腹の子の父親だと―、お前はそう言うのか」
突如として晃司がアクセルを踏み、車が急停車する。
路肩に寄せて車を止めた晃司が燃えるような眼で美月を睨み据えた。もし、視線だけで人を射殺すことができるのであれば、美月はこの場で生命を絶たれていたに相違ない。それほどまでに烈しいまなざしであった。
先刻までの彼とは、まるで別人のようだ。
美月の双眸に、烈しい怯えが浮かぶ。
「嘘をつけ、腹の子があいつの種であるはずがない」
美月は懸命に首を振った。
―ここで負けては駄目!
必死で自分を鼓舞する。もし、ここで腹の赤ン坊が晃司の血を分けた子であると知れば、晃司はすぐにでも美月を強引に連れ戻そうとするだろう。
だからこそ絶対に認めるわけにはゆかない。
たとえいかほど脅されようと、あくまでもシラを切り通さねばならなかった。
「どうでも白状しないつもりか」
低い声で問われ、美月は小さく息を吸い込んだ。
「この子があなたの子どもだと言い切れる証拠がどこにあるのですか? 確かに私は、あなたに無理やり辱められました。でも、その後―あなたの許から逃げ出した直後、私は勇一さんに抱かれたのです。その後も何度も関係を持ちました。だから、この子は、あなたの子どもであるという可能性よりも勇一さんの子どもだという可能性の方が確率的にはるかに高いと思います」
声が震えないようにするのが精一杯だった。元々、息をするように嘘をつくのは得意ではない。
―ごめんなさい、勇一さん。
本当は勇一は美月の心に受けた傷を思いやって、いまだに美月に指一本触れていないのに、何ということを口にしてしまったのか。
美月は心の中で勇一に詫びた。しかし、二人の未来を、お腹の子を守るためには今は敢えて心を鬼にして嘘をつき通さなければならないのだ。弱音など、吐いてはいられない。
「お腹の赤ちゃんの父親は、金田勇一さんです」
晃司がハンドルを操りながら、酷薄な眼で美月を一瞥する。
「ホウ? あの若造がお前の腹の子の父親だと―、お前はそう言うのか」
突如として晃司がアクセルを踏み、車が急停車する。
路肩に寄せて車を止めた晃司が燃えるような眼で美月を睨み据えた。もし、視線だけで人を射殺すことができるのであれば、美月はこの場で生命を絶たれていたに相違ない。それほどまでに烈しいまなざしであった。
先刻までの彼とは、まるで別人のようだ。
美月の双眸に、烈しい怯えが浮かぶ。
「嘘をつけ、腹の子があいつの種であるはずがない」
美月は懸命に首を振った。
―ここで負けては駄目!
必死で自分を鼓舞する。もし、ここで腹の赤ン坊が晃司の血を分けた子であると知れば、晃司はすぐにでも美月を強引に連れ戻そうとするだろう。
だからこそ絶対に認めるわけにはゆかない。
たとえいかほど脅されようと、あくまでもシラを切り通さねばならなかった。
「どうでも白状しないつもりか」
低い声で問われ、美月は小さく息を吸い込んだ。
「この子があなたの子どもだと言い切れる証拠がどこにあるのですか? 確かに私は、あなたに無理やり辱められました。でも、その後―あなたの許から逃げ出した直後、私は勇一さんに抱かれたのです。その後も何度も関係を持ちました。だから、この子は、あなたの子どもであるという可能性よりも勇一さんの子どもだという可能性の方が確率的にはるかに高いと思います」
声が震えないようにするのが精一杯だった。元々、息をするように嘘をつくのは得意ではない。
―ごめんなさい、勇一さん。
本当は勇一は美月の心に受けた傷を思いやって、いまだに美月に指一本触れていないのに、何ということを口にしてしまったのか。
美月は心の中で勇一に詫びた。しかし、二人の未来を、お腹の子を守るためには今は敢えて心を鬼にして嘘をつき通さなければならないのだ。弱音など、吐いてはいられない。