君に恋した冬
第9章 豹変する彼
「嫌な訳ないよね!嬉しいに決まってるじゃん!」
歩美が楽しそうに言う度に
由梨の中ではどんどん先行きが曇り出す
「じゃあ今度お邪魔しようかな」
「ぜひ来てください!サービスするよー
なんたって由梨の彼氏さんだし!」
歩美…もういいよ…やめて…
知らず知らずにギュッと手を握り締めていた
『そろそろ帰ろう…もう遅いし』
耐えきれずに解散を申し出る
皆それを了承し、それぞれの帰路についた
『…』
「…」
さっきとは打って変わって大智は一言も言葉を発さない
それが余計に由梨の恐怖を煽った
私、また何かした…?
わかんない…何か気に障る事言っちゃったのかな…
また殴られるのではという恐怖から
先程の会話を何回も思い出しては考える
そうこうしているうちに
無言のまま隣同士並んだお互いの家に到着する
『あの…送ってくれてありがとう…』
「あの男とは何もねぇよな?」
ジロッと睨み付けられ、思わず身体が硬直する
『あの男…って?』
「さっき居た奴だよ」
若干イライラした様子で大智は尚も由梨を睨む
手は握り拳を作っている
浅井くんのこと…?
もう殴られたくない一心で咄嗟に否定する
『あ、あの人は新人で、たまたま帰るタイミングが一緒だっただけだよ。
何も喋った事ないし…』
最後の部分はある意味本当だが
言葉を交わした事はないという意味で告げる
すると大智は硬い表情を崩し
「そっか。もしあいつに何かされたらすぐ俺に言えよ」
ニッコリ笑って顔を近づけてくる
ギュッと目を瞑り、そのキスを受け入れる
「じゃあまたな。バイトのシフト、あとでメールして」
『わかった。またね』
ほっと胸をなで下ろし、玄関の鍵を閉めたところで
自然に唇を拭っていた
気持ち悪い…
そう思ったからだ