君に恋した冬
第10章 一筋の光
古くからの知り合いだということ
痴情のもつれで争いになってしまったこと
暴力を受けたのは1回だけだと嘘をつき
殴られ方もどことなく酷くならないように濁した
『でも、元はと言えば私が悪かったんです。
私が彼を裏切ったから…』
「そう。辛かったね」
『彼も…辛かったんだと思います…』
「そうだね。彼自身どうしようもなかったのかもね」
『彼だけが悪い訳じゃないので…逮捕はしないでください…私はもういいですから…』
「そうか。わかった。君からは被害届は出さないということでいいね?」
『はい…』
相手は刑事だけれど、誰かに話して
少し心が軽くなった
誰かに聞いて欲しかった
ずっと暗闇から光を求めてさ迷っているようだった
一気に話したせいか、少し息苦しい
「監禁されて、食事を与えて貰えなかった
という事はないかい?」
ほぼ監禁状態だったが、食事は嫌という程用意されていた
ただ食欲が湧かず食べなかったのだ
『いえ、ありません。』
「そうか。辛い話しをわざわざさせてすまなかったね。本当にありがとう」
『いえ…』
「もし、また同じ事があって
どうしようもなくなったらいつでも110番通報するんだよ?」
『わかりました』
携帯を取り上げられているから出来ませんとは言えなかった
「じゃあお大事にね。身体には気をつけて
しっかり栄養あるもの食べてね」
『…ありがとうございます』
刑事達は何かヒソヒソと話しながら
病室を去っていった
入れ替わりに浅井が戻ってきて
またベッドの横の椅子に腰掛ける
帰ってなかったんだ…
「白川さん、お熱測ってもらえるかな?」
先生から体温計を受け取る
その間に血圧を測られる
ピピッと音がして体温計を見ると
驚くことに38℃もの熱があった
「うーん、まだ少し高いね。大事をとって
今日はこのまま入院してもらえるかな?
明日の昼に経過が良ければ退院にしよう」
『わかりました…』
自分では全然気付かなかった…
風邪の熱とは違い、栄養失調のそれは
身体の気だるさはあるものの
喉やら鼻やらの類は一切なかった