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君に恋した冬

第11章 裏切り





病院を出てから駅までの道のりを
浅井は由梨の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる


『ごめんね…遅いよね』


歩く度に全身に鈍い痛みが襲うため
なかなか速く歩けない

「いいよ、ゆっくりで」


浅井は無表情だったが、由梨はその言葉に
暖かいものを感じていた



「なぁ、ごめん。すげぇ気になるから訊いていい?」


『ん?何?』



くるっと振り返って


「親、なんで来ないの?」




あ…そうだよね…




普通ならすぐにでも親に連絡がいき
病院へ顔を出すのがセオリーだというのに
由梨の病室には刑事以外誰も来なかった

不思議に思っても仕方のないことだ


『うん…私ね、親がいないの』



少し小さめな声になってしまい慌てて元気に取り繕う


『あ、でももうちっちゃいときからずっとだから
全然気にしてないんだけどね!』


「いないって…離れて住んでるのか…?」


浅井は少し眉をひそめて言う



『そうじゃなくて…

私が生まれてすぐに、両親は死んじゃったんだって』


「え…」


驚きのあまり声が出ない浅井を余所に話しを続ける


『だからね、親がいないから寂しいとか
そういうの生まれつきだからよくわからなくて。



「ごめん…」


浅井は申し訳なさそうに呟く


『もぉ。朝っぱらからじめじめすんなよ!』


先程浅井に言われた通りに言い返して
同情されないためにもニッコリ笑った



「もう昼だけど」


そんな由梨の心境を読み取って
浅井もニッと少年っぽく笑った

その顔もまた、どこか懐かしいような
誰かに似ているような…



ドキン

ドキン


またうるさい心臓を手で押さえて
由梨は駅まで一歩一歩ゆっくり歩いた


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