君に恋した冬
第13章 少しずつ
そこには絶景が広がっていた
夕陽が沈み月が顔を出し始めた少し薄明るい空に
街の電気がポツポツとつき始め辺り全体をキラキラと照らす
静かな山には都会の喧騒など届かず
神秘的な空気が辺りを包んでいた
木の葉が風でサワサワと擦れる音
少しあがった自分の吐息
微かな虫達の声
全てが鮮明に耳に届く
『綺麗…』
思わずうっとりとその景色をしばし眺める
「これが俺のお願い」
『?』
アキラが由梨の頬にそっと手を重ね
「ここに、由梨と来たかった」
『アキラ…』
自然とお互いの顔が近づき、唇を重ねた
普通なら、この景色を見せたかったなどと言いそうな場面で
敢えてアキラは由梨とここに来たかったと言った
その意味を由梨が理解するのはもう少し先になる
名残惜しく唇を離して見つめ合う
少し紅潮した頬を優しい風が撫でる
「寒くないか?」
『ん…ちょっと寒い…』
アキラは由梨を後ろから包み込む様に抱き締めた
腰に回されたアキラの手に自分の手を重ねる
本当は寒くなかったが、こうされたくて甘えてしまった
お互いの鼓動がお互いの身体に優しく響く
『本当に綺麗…連れて来てくれてありがとう』
「…ああ」
この時のアキラの顔は後ろにいたため由梨には見えなかった