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君に恋した冬

第17章 真実への階段




『あ…由梨です…』


何を言っていいのかわからなくなって
とりあえず名前を言ってしまった


「うん…なに?」


受話器からはアキラの素っ気ない声がする
普段と変わらない事なのに
フられた後では違って見えて
ひどく心が痛んだ


『あの…鍵を、返そうと思って…』


「あぁ」


思い出した様にアキラは返事をする


「今なら家に居るから、もし今日が無理なら
適当にポストにでも入れといて」


『あ…わかった…』



返事もなくプチっと電話は切られてしまった



──今なら家にいる──



どうせなら、もう一度会いたい



由梨は用意をそこそこに、急いで家を飛び出した


なるべく早く、一分一秒でも目に焼き付けておきたくて、
自転車を全速力で漕いだ


アキラのマンションが近付いてくるのに比例して
由梨の胸は高鳴る


会える…アキラに会える…



もう会う口実が無くなるけれど、
それでも今会える事の方が嬉しかった


15分ほど漕いで、ようやくマンションに着き
エレベーターを待つのも億劫で
駆け足で階段を登る



アキラ…アキラ…



5階の奥の突き当たりがアキラの部屋


廊下も走って、ようやくドアの前で立ち止まる


はぁはぁと肩で息をしながら少し呼吸を整えて
震える指先でそっとインターホンを押した



ピーンポーン



機械音がいやに緊張を煽る



アキラ…アキラ…



心の中で何度も呼び掛けていた



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