君に恋した冬
第19章 過去
電車に乗りながら地元へ帰る間も、2人は一言も話さなかった
それからしばらく歩いて、人通りの多いメインストリートへと進んでいった
恭介…どこへ向かっているの…?
そうこうしているうちに空は段々と日が傾き始め
2人の歩いている道もなんだかいかがわしい気配を帯びた一角に入っていた
そして、恭介が一軒の店の前で立ち止まった
その店を見て、由梨は思わず絶句してしまう
ここ…あの時の……
カタカタと自然に手と足が震え、歯もカチカチと音を立てる
そう。ここは初めてアキラに出会った
あのいかがわしいCLUBだった。
そこで由梨は病院を出てから初めて口を開いた
『きょう…す、け…ここ…』
緊張と恐怖から喉がカラカラで掠れた声になってしまう
恭介は黙って振り返り、そっと由梨の手を握った
「大丈夫。俺がついてる」
恭介の真剣な眼差しに見つめられ、由梨も少し冷静さを取り戻して、その手を少し握り返した
「行くぞ」
恭介が外に立っていた受付に何か話をして、そのままそっと店の入り口に手をかけた
鮮明に思い出される恐怖を精一杯ふりほどいて
由梨もふらつきながらも後に続いた
店内はあの時と何も変わっておらず
普通の話し声なんて到底聞こえない程の騒音に
踊り狂う男女
情熱的なキスを交わしている者
女の服の中に手を入れている男もいた
『う…』
その目を見張る光景に吐き気を覚えつつも
見ないようにして、恭介に握られている手だけに視線を集中させた