君に恋した冬
第19章 過去
部屋の中にも恭介の姿は無かった。
『あの…恭介は?』
アキラはキッチンに立ちながら
「さっき電話で、あとは任せるって言ってた。」
『任せる……』
変に気を利かしたのだろうか…
居てくれた方が話しやすかったのに…
『そう…』
短く返事をして、どうして良いかもわからず
部屋の入り口で立ちすくんでいると
コーヒー片手にアキラが
「ん」
とカップを差し出してソファーへ促す
カップを受け取り促されたそこへ腰を下ろすと
アキラは窓際のロッキングチェアに腰掛けた
また沈黙が部屋を満たす
何を話したら良いかわからずに
ただただコーヒーを啜った
アキラは遠くを見つめながら、懐から煙草を取り出す
『あっ…』
煙草の煙は母乳に悪影響を及ぼす
未来の事を考えて由梨は小さく声をあげてしまった
その声にアキラは一瞬手を止めて
視線だけで何?と伝えてくる
『あの…煙草はちょっと…』
こんな事を言ったら子供がいることがバレてしまうかもしれない
でも、生きるか死ぬかの瀬戸際で
必死に生きようとしている我が子を思うと
どうしても言わずには居られなかった
「何…今まで何も言わなかっただろ」
怪訝な顔をしながらもアキラは煙草を懐へしまってくれた
『ごめんなさい…ありがとう…』
由梨は顔を俯けてお礼を言った
それからまたしばらく沈黙が続いた