BL短編
第8章 最後のお願い
起きてすぐ、朝食を済ませ、髪をセットし、身軽な服を選んで着込む。
財布と携帯だけを尻ポケットにねじ込み、部屋を出る。
「母さん、和真兄の手伝いしてくる!」
二階から階段をトントンと降りながらそう言うと母さんが顔を出す。
「あっちょっと!」
もう、あの子ったら、うちの方を手伝って欲しいわ。
そんな声を背中に聞きながら家を後にする。
歩いて1分もかからないほどの距離の和真兄の家は慌しい。
引越し業者に色々指示を出していた和真兄に声をかける。
「忍くんじゃないか。どうしたの?」
「手伝えないかなと思って!」
額に浮かんだ汗を、軍手でぬぐう姿もかっこいい。
「じゃあ、荷物運び終えた部屋の掃除手伝って貰おうかな?」
「まかせて!」
サッと掃除用具を手に取れば、和真兄が笑ってくれる。
「助かるよ、ありがとう。」
最後に話せたのが嬉しい。
けれど今日が最後なのは本当は凄く寂しい。