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来世にて

第3章 前世 女の戦支度

あれからひと月が経とうとしていた。

楓は時折道三に呼ばれ、閨の手解きを受けていた。
楓の色香は、日に日に増し城内の男達の口端に楓の名前があがることもしばしばであった。

日の光が強くなってきた皐月の夕刻、光秀が帰蝶たちのもとを訪れていた。

「帰蝶さま、楓どの、ご機嫌いかがでございますかな?」

「光秀どの。今日はなにをお持ち下された?」

いまだ、花より団子の帰蝶は光秀の手にあった菓子をめざとく見つけ、ねだるように声をかける。

「京より取り寄せた干菓子に御座います。どうぞお召し上がりくだされ。」

控えていた侍女に菓子を渡し、帰蝶達の前に座る。その振る舞いはとても優雅で一瞬時が止まったようである。
楓は思わず息を飲んだ。

「光秀どのはいつも美しいのう。帰蝶も光秀どののようになれるかや。」

「これは異なこと。帰蝶さまこそ蝶が舞うように美しい。何を仰せになるか。」

と、光秀は帰蝶に向かって優しく微笑む。
そのひとつひとつが美しく、楓はおろか居並ぶ侍女たちは、光秀に釘付けであった。

光秀は楓の里の話や小見の方の里の話しなど明智の里の話を一通り二人に聞かせる。
楓は光秀から聞く母や兄弟達の話しに、心を弾ませる。正月に里帰りして以来、なかなか会うことが出来ないので、光秀の来訪は楓にとってとても心待にしているときなのだ。

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