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来世にて

第4章 前世 初恋

楓の乳母が燭台に灯をともしに来た。

「今何時じゃ?」

楓は辺りがすっかり暗くなっているのに気付いた。

「お二人とも囲碁に夢中でおられましたものな。戌の刻を過ぎた辺りでしょうか。
夕げはいかがされます?こちらに光秀殿の分もお運びしましょうか。」

乳母は微笑ましげに二人を見つめながら話す。

「かたじけない。久方ぶりに楓と夢中で打ち合っておった。楓がなかなか強うなってな。面白うて時を忘れておりましたわ。まだ勝負がつかぬ。このままでは帰れぬゆえ、こちらで夕げを馳走になってもよろしいか?」

「もちろんにございます。楓さまがこのように楽しげにされるのはほんに久方ぶりのこと。このばあも嬉しゅうございますゆえ、今宵は心置きなく指してくださいませな。では、夕げを運んで参りましょうぞ。」

「帰蝶さまは?」

楓は自分の役目を忘れていたことに気が咎めた。

「ご案じめさるな。帰蝶さまもこのところ楓さまが塞ぎこんでおられるのを気にしておられた。光秀殿と楽しげに囲碁をしておられるとお伝えしたら、今宵はもう来ずともよいから心ゆくまで楽しんでおくれと申されておりました。」

「帰蝶さまが‥」

頷くと、乳母は足取り軽く出ていった。
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