近くて甘い
第55章 淡い恋の終わり
「私っ……」
「先生も…
自ら幸せから遠退く必要はないですよ…」
「っ……」
堪えきれなかった涙が、恵美の頰を伝った。
戻れない──…
それも、
過去の自分の行動が、運命を決めてしまったせいで──
「では…」
「っ……か、要くんっ…」
「すみません…急いで行かなくてはならない所がありますので…」
向けられた優しい笑顔に、恵美は、涙を流しながら、無理矢理に笑顔を作った。
「そう…」
冷たい風が、強く吹き抜けて、落ち葉が舞い上がる。
「なら……
行かなくちゃねっ…」
「はい…」
「っ……元気でね…」
「……先生も…」
ちらと、手を振った恵美から要は目を離すと、そのまま車を発進させた。
終わった──…
不完全燃焼だった恋が…ついに…
「かなめくん…っ……」
恵美は、要の車が見えなくなるまで、ずっとその場に立ち尽していた。