近くて甘い
第55章 淡い恋の終わり
再会してから、よく上の空になっている加奈子のことを春人は気付いていた。
それでも、加奈子を自分の妻として、実家に連れて帰るため、それだけのために見ないふりをして来た。
加奈子は器用でない。
また、春人は昔からよく知っている幼馴染みだ。
だからこそ、何を考えているのかがすぐに分かってしまう…
「かな…?」
「………」
「おいっ…!加奈子っ!」
「んっ…あ、ごめん…なに?」
街を歩きながら、春人はすがりつくように加奈子の手を握る。
「お前は…
俺と…結婚するんだよな…?」
「え…?」
「だから…今…
俺と一緒に空港に…向かってるんだよな…?」
確かめるように、
どうしても拭えない不安を、消し去るように、
春人は、強くそう加奈子に答えを求めていた。
「……う…ん」
歯切れの悪い返事に余計に加奈子を握る手の力が強くなる。
加奈子は目を見開くと、アハハと笑って春人の方に向き直っていた。