近くて甘い
第56章 片想いの終わり
もう忘れたい…
──────田部さん…
あの甘いささやきも、爽やかな笑みも…
──────本当に、君はおもしろいねっ…
飾らないあの笑い声も…
全て忘れたい──
にもかかわらず
加奈子の頭の中は、要でいっぱいだった。
どうしたらっ…
どうしたら忘れられるのっ…
どうしたらっ…この想いを消せるの──…
「田部さんっ……」
甘いささやき…
そして、
鍵穴に鍵を差したままの加奈子の手に、大きな手が重なった。
「……良かったっ…」
「っ……」
「本気でもう行ってしまったと思ったっ…」
まさか…
どうして…っ
「要副社長っ…」
振り返った先に肩を大きく上下させている要が目に入って、加奈子は、ボロボロと泣いたまま目を見開いた。