近くて甘い
第56章 片想いの終わり
胸が高鳴って仕方がない…
でも、それを彼は知らない──…
「私に近付かないでくださいっ…」
「っ……田部さん…」
「もう嫌なんですっ…」
ギュッと目を瞑ると、バラバラバラと、溜まっていた涙が一気に流れ出て、地面にしみ込んだ。
「こうやってちょっと近付いただけでっ…
要副社長はそんなつもり無くても…っ
私は、すごくドキドキしちゃうんですっ…」
「─────…」
「私だって幸せになりたいのに…
要副社長のこと忘れたいのにっ…」
苦しくて…
息が…出来ないほど…
「田部さん…」
あぁ…
「そうやって名前を囁かれるだけでも、私はっ…想いが溢れて苦しいんですっ…」
私は、
元上司の彼に、何を言っているんだろう…
勝手に惚れたくせに…
要は苦しそうに言葉を続ける加奈子のことを黙って見つめていた。
「片想いを続けるって…そう言いましたけどっ…
でもっ…
要副社長が他の女の人と幸せにしているのは見ていられませんっ…
だからっ……」
だから、
もう、私は…
「片想いをやめますっ…」