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近くて甘い

第57章 副社長はジェントルマン

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カチャリと、ティーカップの音が有川商事に響く。

いつも以上に緊張している加奈子は、震える手でクッキーを用意し終えるとギュッと握った拳を膝に乗せていた。


色気…色気…色気…


大丈夫、藍が言うようにブラウスだってちょっと胸元開いたし、メイクも香純にLINEしてポイントは抑えたし…

男が抱きたくなるっていう香水だって買って、振り掛けたし…


クンクンと鼻を利かせた加奈子は慣れない匂いを感じながら、うん、と一人で頷くと、ふぅーっと息を吐いた。



完璧。
色気バッチリ。
これできっと要副社長も──…



「やだっ…私そんなことばっかり考えてっ…」



「ん?どうかした?」



「あっ…いやっ…」




思わず口に出してしまった独り言に反応されてしまったことに加奈子は顔を赤らめると咄嗟の勢いでソファーから立ち上がってしまった。



「……………田部さん…?」



そんな加奈子に要は更に首を傾げる。
あっ、すみませんっ!と言いながら座った加奈子を不思議に思いながら、要は加奈子の前にカモミールティーを置いた。



「なんだか、今日はいつにも増してソワソワしてるみたいだから…これを飲んで落ち着くといいよ」


「っ…別にソワソワなんかっ…」



過剰に反応した加奈子は足を動かした弾みに膝をローテーブルにぶつけて、いたっ…と小さく悲鳴を上げた。

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