近くて甘い
第57章 副社長はジェントルマン
目を瞑った要は、加奈子の言葉に胸を震わせながら、キスを続けていた。
まっすぐな彼女を前に、身体を熱くしている自分にどこか後ろめたさを感じていた要だったが、それが解放されて、加奈子共々心地よさを感じていた。
壊したくない…
こんなにも自分が臆病になることはない…
感情だけで突っ走ることもなく、また、突っ走りそうになる自分にブレーキをかけて、目の前の彼女を大事にすることだけをここしばらくは考えていた。
あぁ…
なのに…
「……田部さんのせいで…僕の努力は水の泡だよ」
「あっ…」
聞いたことのない加奈子の甘い声に、脳から痺れて仕方がない──…
「すべてを特別にしたかったのに…」
再び加奈子をデスクの上に優しく押し倒した要。
そのデスクに乗っていたペン立てが派手に倒れて床に散らばる音すらももう要の耳には入らない。
赤らんだ顔で、加奈子は要を見上げる。
その表情には、だんだんと男をみせる要に対しての困惑も見える。