近くて甘い
第57章 副社長はジェントルマン
それは紛れもなく、避妊具だった訳だが…。
どっ、どうしてそんなものが、スーツのポケットから…っ
加奈子の動揺に気付いた要は片眉を上げて、少しきつめに加奈子のことをみた。
「………別にいつも常備している訳じゃないし、今日そういうつもりだった訳じゃない…
たまたま社長に…」
「社長…っ?」
意外な人の名前に加奈子は息を飲む。
はぁっと諦めたように溜め息をついた要は、そのまま加奈子に顔を近付けた。
「……そんなことは…
いまどうでもいい──…」
「っ……」
真剣すぎる眼差しに、加奈子はつい息を忘れそうになった。
副社長が何を言いたかったのか、気にならないわけじゃないけど…
でも…
そんな今考えられないくらい、頭の中が副社長でいっぱいだ…──
「……いくよ…」
要のささやきに、加奈子は、ゆっくりと頷いて、その瞬間を待った。