近くて甘い
第58章 社長夫人のお受験
え…?
それって…
困惑した表情を私が浮かべていると、神崎…いや相原先生は、私の気持ちを汲み取ったように口を開いた。
「離婚したの。旦那と」
「……───」
「だから、旧姓の相原に、もどったの」
「そう…なんですか…」
なんて反応したらいいかまるで分からず、私は溜め息をつくように言葉をもらした。
それで、一体彼女は私になんの用があって…
「これ、あなたが受ける学校の近年の出題傾向よ」
相原先生はそういって、私に、何枚綴りにもなったプリントを渡した。
「え…?」
「あ〜!これ、私たちが受験のときもくれたよね〜!」
私が驚いていると、後ろから梨子が声を出した。
「そうそう、これなかったら俺受かんなかったかもしんねぇわ…。先生まじでありがと!」
二ヒヒと亮くんがお礼をいうと、相原先生は優しく微笑んだ。
「進路カウンセラーとしての、仕事、だから」
この人の事が分からない…
こんなに優しく微笑むのに、不倫をしていた人だなんて…
以前の要さんを傷付けた人だなんて…
どうしても私には、相原先生が分からなかった。