近くて甘い
第58章 社長夫人のお受験
弄んだわけじゃないのだ…
彼女は、本気で…
本気で要さんの事を愛していたんだ…
「愛していたら、身を引いた…。
私はそのつもりだったけど、結局彼を傷付けたことには変わりないわ…」
顔を上げたとき、その凛とした先生の表情に、私は息をのんだ。
「離れても、結婚しても、要くんへの想いは消えるどころか増すばかりだった…。
今回再会して、私が見苦しく迫ったのは、私の中の女が、私の身体を支配してしまったから…」
理屈じゃない…
恋愛はそういうものなのは、私もよく分かる…。
「……まぁ、彼はもう私のことを愛していなかったみたいだし、私が思っていたよりも随分成長していたみたいだけど…」
先生の言葉に、今加奈子さんと幸せな要さんの表情が浮かんだ。
「結局、教員だから、と大人ぶった私だったけど、私は彼より未熟だったの」
そう爽やかな笑顔で言った先生は、誰よりも大人に見えた。
だからだ…
この人は悪い人じゃない…
いい人なんだ。
でも、この華奢な身体の中は、人間らしい感情が熱く燃えていて…。
「いい加減にしないとなって、要くんに振られて思ったの。
だから、旦那にも別れを切り出して、私は私で強く生きて行く決心をしたの」
そういったあと、先生は、照れたように分かった。
「出来るかどうか分からないけどね…」