近くて甘い
第59章 運命の悪戯
「っ……はぁっ…」
車の中で、動転する気をどうにかして抑えようとしながら、光瑠は、以前の婚約者である悠月(ゆづき)のことを思い出していた。
悠月が倒れたもの、突然だった。
結婚を決めた矢先の出来事…。
そして、急性白血病を患っていることが分かり、結婚という約束を果たさないままアッという間にこの世から去ってしまった。
「社長…」
落ち着いて下さい、などと、バカげたことも言えない。
何と声をかけたらいいのか分からないまま、要自身も真希の容態を心配していた。
倒れるだなんて…
そんなにも具合が悪かったなんて…。
気付けなかったことに、光瑠も要も罪悪感を感じながら、車が早く病院に到着するのを待つ。
光瑠は汗を流しながら、額に手をついていた。
また…
また…
去っていってしまうのだろうか…
愛した人が…
また…