近くて甘い
第60章 卒業と、それから…
「……気が気じゃないな…」
額の汗を拭った真希の父を、要は微笑みながら見つめた。
「お二人とも、他にも人がいるんですから…もう少しお静かに…」
諭すようにいったあと、二人にキッ!と強い視線を向けられた要は、ハッと息を飲んだ。
「「静かになんか出来るわけないだろう!」」
大きな声を揃えた二人に要は頭を抱える。
逆効果だった…っ。
「分かりました…すみません…」
これ以上は本当に迷惑になる…。
やれやれと言ったように息を吐いた要を横目に、光瑠は真希の後ろ姿を見た。
思えば、春から本当に様々な事があった…──
通い始めの頃は短いスカートに発狂したし…
猫を連れて来た時はまんまと飼うことにされてしまった。
ゴールデンウィークは八ヶ岳に行き、
香純のせいで想いが交わらなかったこともあった。
文化祭ではまさか使用人の真似事をさせれて…。
「少し前まで…小さかったのに…もう、卒業か…」
しみじみと真希の父が呟く。
「真希には苦労ばかりかけて…親らしい事が出来なかったと反省していたら、もう真希自身が親か…」
「────────…」