近くて甘い
第27章 キスの責任
閉まった扉を見つめながら、光瑠は溜め息をついた。
「社長…」
しっとりと腕に触れてきた香純のことを、眺める。
その瞳はまだ嘘で流した涙で濡れている。
「………悪かった」
「いえ…」
「まさか…本当の事だとは…っ」
「辛いですよね…」
今がチャンス…
参っている光瑠に取り入ろうと必死で香純は光瑠に触れて、アピールを続ける。
「……何か望みが合ったらいえ。昇給でも何でもいい…」
「いえっそんなっ…」
欲しいのはお金じゃない。
ジッと見つめて、誘惑しようと試みるが、光瑠はまるで香純の方を見ない。
少しムッとした香純は、長い髪を靡かせながら、豊満な胸を押し付けるようにして光瑠の腕を掴んだ。
「昇給はいいですので…どうか…私を社長の傍に置いて下さい…」
「は?」
訳の分からぬ香純の申し出に、光瑠は眉をしかめた。
こいつは一体何が望みなのか…
探ろうとしても、動揺のせいでうまく頭が回らない…。
「社長のサポートをしたいんですっ…」
「……秘書ならもういる」
「でも…女性じゃないと気の配らない事もあると思うんです…」
「……」
考えるのがひどく億劫になった光瑠は、そのまま香純から離れて、部屋を出ようとした。
「っ……無理なら専属のお茶汲みでもっ…それだけでもいいんですっ…」