近くて甘い
第31章 if...
カナメさんの足が止まった。
あ…
良かった…聞こえたんだっ…
くるりと彼は振り返って、辺りを見回す。
あれ……?
「私ですっ…」
手を伸ばしたカナメさん。
その仕草に私は違和感を覚えた。
まるで、前から走ってくる私の事が“見えていない”かのようなその仕草…
「あのっ…」
ようやく彼の目の前に息を上げながら立った。
「この声はっ…」
それだけ呟いた彼は、
傘を落として、私の方へと手を伸ばした。
間近で見て、
ドキドキと心臓が高鳴った。
黒い髪が雨に濡れて、
それが少し幻想的で…