近くて甘い
第31章 if...
甘い声が耳元で囁かれて、それだけで、また涙が出る。
あれから、色々あった…
せっかくもらったお金も、ろくに使えないまま、借金取りにふんだくられてしまったし…
私は夜の世界に身を落としてしまった…
「このままじゃ風邪を引くから…
とりあえず、俺のうちに…」
「えっ…」
「悪いけど…車のところまで案内してくれるか…?」
意味が分からなくて、私は、言葉を返せずに、固まってしまった。
そんな私の事を見ながら、カナメさんは、あぁ…っと呟いて、少し寂しく笑った。
「俺ね、君と出会った日に…事故に合って…」
「じっ、事故っ…!?」
「うん……失明…したんだ…」
あまりの事に、私は息を飲んだ。
あぁっ…
だからっ…
だからさっき、私の事に気付かないまま、横を通りすぎていってしまったか…
「……それでもまだ…」
言葉を続けた彼を私は見上げた。