近くて甘い
第31章 if...
「見えなくてもいいって…今日初めて思ったよ…」
「っ…」
「名前を…名前を教えてくれ…」
そうだ…まだ…
私たちは名前すら知らなくて…
「藤木っ…藤木…真希です…」
「……真希…か…」
やっと名前で呼んでもらえて、言いようがないほど、幸せな気持ちになった。
「あのっ…あなたは…」
「関根 要。要でいいよ」
カナメは苗字じゃなくて名前だったんだ…
「素敵な名前ですね…」
「そうかな…?真希の方が、ずっといいと思うよ?」
この人はなんて優しく笑うんだろう…
二人で小さく笑っていたら、またどんどんと身体が近付いていった。
もう雨は全く気にならなかった。
「真希…」
頰に触れていた彼の手が、ゆっくりと滑っていって、唇をなぞった。
高鳴る鼓動…
不快感はない…
「要さん…好きですっ…」