近くて甘い
第32章 クッキーの教え
「ごめんなさいっ…なんでしょうかっ…」
ピョンっと跳ねた後ろの髪の毛。
それが何だか、愛しく感じた要はベンチに座ったまま加奈子を見上げた。
「これ……いつも朝に作ってくれているの?」
えっ?
怒られるのかと思っていた加奈子は要の質問に拍子抜けしながら背筋を伸ばした。
「はいっ…そうですっ…!!
なので、腐ってたりはしないかとっ…」
「でも…寝坊したって言ってたよね?」
「あっ、はい!私バカなんで、昨日残業させられちゃって…」
アハハと笑った加奈子は、ボサボサの頭を掻いた。
「だから今日、5時には起きれなくて…」
「5時っ…?」
このクッキーを作るためだけに…
彼女は、毎日5時に…?
「はい…今日は6時になっちゃったので、髪の毛セットする時間がなくて…」
「………」
気持ちに応える事は出来ないと、そう伝えたにも関わらず、あまりに熱心なその姿勢に要の胸がキュッと締め付けられた。
「………そんなに無理しなくていいのに…」
「いえっ…自分で毎日副社長にクッキー作るって決めたのでっ!」