近くて甘い
第32章 クッキーの教え
こんなにも真っすぐに想われている…
なのに、応えることが出来ないことのもどかしさに、要は顔をしかめた。
感謝しているし、それをしっかりと伝えるべきだとは思うが、それは、彼女に気をもたせてしまう行為なのではないかと思い、要は戸惑っていた。
それでも…
「…ありがとう……」
「っ……」
「嬉しいよ…」
勝手に言葉が口から出て、顔は微笑んでいた。
「嫌な夢を見て、落ち込んでたんだ…」
「夢…ですか…?」
袋の温かさに癒されている自分がいる。
彼女をこうやって引き止めているような気がするけれど、
でも、今日はそんな彼女の明るさに頼りたいと思っている自分がいる──…
「もしも…
もしも、真希さんと上手くいっていたら、どうなっていたのかって…」
「………」
「子どもまでいてね…
すごい夢だったよ…
でも、何故か、満ち足りない…
そんな夢だった───…」
再び要の隣に腰を下ろした加奈子は、ジッと要の顔を見つめながら、さきほど手渡したクッキーの袋を要の手から取った。