近くて甘い
第32章 クッキーの教え
「……昔、お兄ちゃんにいじめられて…」
ゆっくりと話し始めた加奈子は、その袋を開けていく…。
妙に落ち着いた様子の加奈子の横顔。
「ばあちゃんに、『もしも、お兄ちゃんがいなくて一人っ子だったら、私はいじめられなかったのにっ!』って泣いたんです…」
「………それで?」
「そしたら、ばあちゃんに言われたんです…」
顔を要の方に向けた加奈子は、目を瞑りながらふぅっと息を付いた。
………?
どうしたのだろう…
訳の分からぬまま、要はそのままでいると、突然カッと目を見開いた加奈子に、ビックリして少し身体をビクつかせた。
「『もしもなんて世界はねぇ!今ある世界、そこで精一杯生きろっ!!! 』」
「っ…」
目が覚めたような感覚に、要は少し黙ったあと、堪えきれずに、プッと吹き出した。
「“もしも”って言葉はすごく魅力的ですけど…それは、幻想でしかない…。だからそんなしょうもない事をうじうじ考えてないで、前へ進めって、ばあちゃんは言いたかったんだと───」
「ふっ…ふははははっ!」
「ふっ、副社長っ!?」
突然お腹を抱えて笑い出した要の事を見ながら、加奈子は、急に今の自分が恥ずかしくなって、顔を真っ赤にさせた。