近くて甘い
第49章 逃げ道
「───社長のため…に決まっているだろうが…」
酒田さんの質問に言い淀んでいると、要さんが私の代わりに答えた。
そんな風に当たり前のように言われると恥ずかしいのだけれどっ…
「えっ…社長のため…なんですかっ…?」
「っ…馬鹿らしいのは自分でもよく分かっているつもりですっ…」
追い打ちをかけるような酒田さんの質問にたじたじになりながら、私は顔を紅くして俯いた。
「いえ…そんな馬鹿らしいだなんて──」
「真希さん…語学は…そんなに甘くありませんよ」
「ちょっ…関根さんっ…そんな言い方はっ…」
「分かってます…」
私のことを庇ってくれた酒田さんを押し切って、私は要さんのことを見つめた。
この二人はたくさんの言葉をいとも簡単に話してしまうけれど、それが本当は簡単なことではないことは私にだって分かる。
「……それに社長は望んでいないと思いますよ…」
「それも…分かっています…」
そう答えながら、膝の上で私は強く拳を握った。