近くて甘い
第49章 逃げ道
「既婚者が、何を言っているんですか…。もう遅いですから、夫の元に帰ったらどうですか…?」
「……夫なんか…私構ってくれないし…関係だって冷めきってる…。別れてるも同然よ…」
そう言って恵美は少しだけ要から視線を外した。
「………僕との事は…遊びだったんですか…」
淡くて苦い…
若かった日の出来事…
「そんなっ…遊びだなんてっ…」
「なら…なぜっ…なぜ僕を捨てて結婚なんか…っ」
グッと唇を噛んだ要は、半ば強引に恵美を自分から引き離した。
「………ごめんなさい…」
「飽きたなら飽きたと…そう言ってくれれば僕は──」
「──あなたは生徒だったのよっ…!」
ハラりと恵美の頰に涙が伝った。
何を今さら…
そんな事は、今言わなくても、その当時から分かっていたことだ…
「私、怖かったの…。年下で…しかも生徒の要くんに、溺れていく自分が…」
細くて柔らかい髪が、風でふわりと靡いた。