近くて甘い
第50章 選択
息を切らしながら、トイレに駆け込んだ加奈子は、手洗い場ではぁはぁと息を整えていた。
間違いない…
あれは…
「要副社長っ…」
思わずそう小さく囁いた加奈子は、両手で顔を覆った。
一緒にいたあの綺麗な人は…
この前副社長の部屋の前に来た人だ…
───────先生…
そう…どういう関係なのか分からなかったけれど、確かに副社長はそう呼んでいた…。
休日に二人でいるってことは…
言いようのない胸の痛みに加奈子は、強く唇を閉じた。
そのとき、扉が開いた音がして、加奈子は、ふと顔を上げた。
「……あら…?あなた…」
「っ…」
このタイミングで化粧直しに現れた恵美に、加奈子は目を見開いた。
うそでしょ…っ。
なんで会っちゃうのっ…
「この前有川商事で…」
「どっ、どうもっ…」
懸命に笑顔を作ろうとしても引きつってしまっているのが自分でもよく分かる…
「すごい偶然ねっ!あ、そうそう、実は要くんも一緒に来ててね…」